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Q&Aコーナー

14.難聴

14-1急に耳が聞こえにくくなったのですが、早く診て貰ったほうがいいですか?

急に耳が聞こえなくなる場合、色々な原因が考えられますが、大きくは、外耳道(耳の穴)や鼓膜、中耳の異常で聞こえにくくなる場合と、音の感覚細胞がある内耳や聴神経の異常でおこる場合の二つに分けられます(14-2を参照ください)。後者の場合、すなわち音の感覚細胞や聴神経の異常で急に聞こえなくなった場合は、可能なかぎり早急に治療が行われる必要があります。

14-2難聴にはどんな種類があるのでしょうか?

難聴を、どのような観点から分類するかによって、色々な分け方があります。一般に、難聴の分類として、よく使われるのは、音の伝達経路のどこが障害されているかによって分ける分け方です。音は、空気の振動として伝わっていきます。まず、外界の音が、外耳道(耳の穴)の中の空気を振動させます。この振動が、鼓膜→中耳(耳小骨)→内耳と伝わります。内耳には音の感覚細胞があり、振動のエネルギーが電気的な信号に変換されます。この電気的な信号が聴神経を経て、脳の聴覚中枢まで伝えられます。すなわち、音が耳から脳まで伝わる過程は、内耳を境にして、前半は振動として、後半は電気的な信号としてというように二つに分けることができます。前者を伝音系、後者を感音系といいます。

難聴の原因が、伝音系にあるのか感音系にあるのかで、治療の方法や治り方が大きく異なります。そこで、伝音系の障害でおこる難聴を伝音難聴、感音系の障害でおこる難聴を感音難聴というように区別します。ときには、両方ともに障害がある場合もあります。この場合には混合難聴といいます。

14-3難聴の診断方法と治療法を教えてください。

14-2に書いたように、伝音難聴か感音難聴かで、治療方法が大きく異なります。耳の中の診察(視診)と聴力検査を行うことで、伝音難聴か感音難聴かを区別することができます。外耳道に耳垢が詰まったり、鼓膜が破れたり、中耳に膿がたまったり、というような原因で、伝音難聴がおこります。伝音難聴の治療では、それぞれの原因を取り除くようにすることで難聴が改善します。一方、内耳の病気などで感音難聴がおこります。内耳の病気には、突発性難聴、メニエール病などがあります。それぞれ原因は様々ですが、治療は基本的には共通したいくつかの薬の組み合わせで行われます。

14-4難聴とはどの程度の聴こえにくさを言うのですか?

前述の標準純音聴力検査を行うと、周波数毎の聞こえにくさが数値で表示されます。検査では、125Hzから8000Hzまでの周波数について調べますが、このうち、500Hz、1000Hz、2000Hzの周波数の音が聞こえる大きさを平均したものを、平均聴力レベルといいます。この平均聴力レベルと聞き取りの不自由度の関係は、以下の表の通りです。ただし、標準純音聴力検査は純音という音を聞き取る力を調べたものである一方、実際の聴力には、純音を聞き取る力以外に、言葉の小分けを聞き取る力など、他の要素も関係します。そのためこの表は、あくまで大雑把な目安ということになります。ちなみに、日本では、平均聴力レベルが両方とも70dB以上か、または、片耳が50dB以上で、かつ反対側の耳が90dB以上の場合に、聴覚障害の身体障害者と認定されます。

難聴の程度と平均聴力
難聴の程度 平均聴力レベル 聞き取りの不自由度
正常 25dB未満 普通の会話は問題ない
声が小さいと聞き取れないこともある
軽度難聴 25〜50dB未満 声が小さいと聞き取れないことが多い
テレビの音を大きくする
中等度難聴 50〜70dB未満 普通の会話が聞きづらい
自動車が近づいて初めて音に気づく
高度難聴 70〜90dB未満 大きな声でも聞きづらい
商店街などの大きな騒音しか聞こえない
重度難聴 90dB〜 耳元での大声も聞きづらい
日常音はほとんど聞こえない

14-5騒音性難聴とは、どのようなものですか?

工場など騒音の大きな職場などで長期間働き続けることによって難聴がおこってくることがあります。このような難聴を、騒音性難聴、または職業性難聴とよびます。騒音性難聴では、原因となる騒音の種類とは関係なく、4000Hz付近の聴力から低下し始めることが知られています。騒音性難聴には、以下のような特徴があります。(1)騒音性難聴には遺伝子が関係しており、遺伝的に、騒音の曝露で難聴をおこしやすい人と、多少の騒音を聴いても難聴をおこしにくい人がいます。(2)騒音性難聴には治療法はなく、騒音の曝露を受け続ける限り、難聴は進行しつづけます。(3)騒音の曝露を止めると、そこで進行は止まります。したがって、騒音性難聴は、なるべく早期に発見し、発見されたならば、以後はなるべく騒音の曝露を受けないように工夫していく必要があります。

14-6ロックコンサートに行った後で、聴こえにくくなったのですが、耳鼻科を受診した方がいいでしょうか?

ロックコンサートなどでの大音響や、爆音、銃声などを聞いた後で、聴こえが悪くなることがあります。このように、短期間の強大音の曝露で聴力が落ちるものを、14-5の騒音性難聴とは区別して、音響外傷とよびます。音響外傷は、軽い場合は、1〜2日で元に戻ることがありますが、そのまま難聴が残ってしまうこともあります。難聴は、一般に、早期に治療を開始するほど治りやすく、時間がたるほど治りにくくなるので、なるべく早期に耳鼻咽喉科を受診してください。

14-7職場の健診で聴力の異常を指摘されたのですが、耳鼻科を受診すべきでしょうか?

労働安全衛生法で決められている職場の定期健診では、1000Hzと4000Hzの二つの音(周波数)についての聴こえを調べます。この二つの周波数を調べる理由は、健診での聴力検査の目的のひとつとして、14-5の騒音性難聴を早期に発見する目的があるためです。騒音性難聴の初期には、4000Hz付近の聴力が落ちてきますが、通常、この時点では自覚症状はありません。しかし、14-5で述べたように、騒音性難聴は早期発見が重要なので、健診職場の健診で異常を指摘された場合には、なるべく耳鼻咽喉科を受診してください。このような健診の異常で、騒音性難聴の他、自覚症状のない耳の病気が見つかることもあります。

一旦、騒音性難聴と診断された場合、たとえ、その時点で予防を始めたとしても、その後の毎年の健診で、毎回、聴力の異常を指摘されることになります。この場合、既に騒音性難聴と分かっているからという理由で、そのままにしている場合がありますが、必ず、毎年耳鼻咽喉科を受診して、正式な聴力検査を受けておいてください。騒音性難聴は、労災の対象となりますが、この判定は離職時に行われます。そして、この離職時の判定に際して重要なことが、年々の聴力の変化です。これは、健診で行われる聴力検査だけでは分かりません。したがって、毎年の正式な聴力検査を受けていない場合、離職時に労災の対象となるほどの難聴があったとしても認定されないことがありますので、注意が必要です。

14-8老人性難聴とは、どのようなものですか?

加齢に伴って進行するような難聴を、老人性難聴といいます。老人性難聴の特徴として、(1)両方、ほぼ同じように悪くなること、(2)高音になるほど、聴力が悪くなることの二つが挙げられます。高音の低下は、早い方で30才頃から始まり、一部の方は50才頃から、通常は70才頃から自覚し始めるといわれています。しかし、老人性難聴の起こり方には個人差が大きく、遺伝子が関係しているといわれています。

14-9加齢とともに、高い音が聴こえにくくなるのは何故ですか?

14-8で述べたように、加齢とともに高い音から聴こえにくくなり、これを老人性難聴といいます。老人性難聴では、内耳の感覚細胞、内耳の血管条とよばれる毛細血管が発達した部分、聴神経などで障害がおこるため聴こえが悪くなるといわれています。しかし、何故、低音よりも高音の方から悪くなってくるのかという理由は分かっていません。

一方、14-7で述べたように、騒音性難聴では、原因となった騒音の種類や高さ(周波数)とは関係なく、4000Hz付近の聴力が特に低下してくることが知られています。この理由として、内耳の構造的な理由から、内耳の4000Hzの音を感じる部分が、最も騒音の影響を最も受けやすいという説や4000Hzの音を聴くための部分の血管が、他の部分に比べて少ないので、血流低下をおこしやすいという説があります。

老人性難聴も騒音性難聴も、ともに遺伝が関係しているとされていますが、最近の研究で、この両者には共通の遺伝子が関係しているということが分かってきています。老人性難聴で高音から低下してくることと、騒音性難聴で4000Hzから低下してくることの間にも、何か関連した理由があるのかもしれません。

14-10老人性難聴の予防法や治療法がありますか?

現時点で、老人性難聴を確実に予防するための方法はありません。しかし、老人性難聴に限らず、老化によっておこる色々な臓器の障害には、活性酸素(フリーラジカル)による細胞障害が関係しているという説があります。そこで、老人性難聴の予防としては、活性酸素による細胞障害をいかに少なくするかということが考えられています。詳細は省きますが、以下に、現在まで実験的に、老人性難聴に対する有効性が示唆されている薬物を列挙します。(1)αリポ酸、(2)アセチルLカルニチン、(3)ビタミンE、(4)ビタミンC、(5)メラトニン、(6)ラザロイド類、(7)アトロバスタチン、(8)ビタミンB12、(9)葉酸、(10)ラバミピド