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各疾患の解説と症例集

顔面神経麻痺について

顔面神経は、顔の表情筋(まぶたや唇の筋肉)を動かす神経です。
顔面神経は、耳の骨(側頭骨)の中を、聴神経と並んで通っており、この神経の麻痺で、片側の顔が動きにくくなる状態を、顔面神経麻痺といいます。

顔面神経麻痺の分類

顔面神経麻痺は、どの部分が麻痺したかによって、末梢性顔面神経麻痺と中枢性顔面神経麻痺とに分けられます。
前者は、顔面神経が側頭骨の中の部分で麻痺を起こすもので、後者は、頭の中で麻痺が起こるものです。
中枢性顔面神経麻痺は、脳血管障害などでおこることがありますが、この場合は、通常、他の脳の障害の症状を伴っていることが多い一方で、顔の麻痺自体は非常に軽いという特徴があります。
顔に明らかに分かるくらいの強い麻痺が出ている場合は、ほとんどが末梢性顔面神経麻痺です。 末梢性顔面神経麻痺は、その原因によって、ベル麻痺、ハント症候群、外傷性、耳性などに分けられます。
統計的には、約7割がベル麻痺、1割がハント症候群で、残りが外傷性や耳性となっています。

ベル麻痺とハント症候群

特別の原因がなく、急に強い顔面神経麻痺がおこってきた場合は、通常は、ベル麻痺かハント症候群のどちらかということになります。
ベル麻痺は、片側の顔面神経麻痺だけで、それ以外の症状などがみられないものをいいます。 これに対して、ハント症候群とは、麻痺をおこしている側の耳に帯状疱疹ができたり難聴がおこったり、また、めまいを伴ったりするものをいいます。

麻痺以外の症状

前述のように、顔面神経は側頭骨の中を聴神経と一緒に通っています。 聴神経は内耳の情報を脳におくるための神経です。 内耳は、音を感じる機能と体のバランスに関係する機能の二つを併せ持っているので、聴神経もこれら二つの情報をおくる機能があります。
ハント症候群では、顔面神経が強く障害されるばかりでなく、聴神経や内耳の機能も障害されるため、難聴やめまいがおこることがあります。 また、顔面神経は、側頭骨の中で鼓索神経という枝を出します。 この鼓索神経は、舌の側面の味覚に関係しているため、鼓索神経の障害がおこると、舌の麻痺をおこしている側の味覚が低下します。

原因

ハント症候群は、帯状疱疹とともにおこってくることから明らかなように、帯状疱疹のウィルス、すなわち水痘帯状疱疹ウィルスによっておこります。
これに対して、ベル麻痺は、長い間、原因不明とされてきましたが、最近の研究で、ベル麻痺も、ほとんどが単純ヘルペスウィルスなどでおこることが分かってきました。

検査について

顔面神経麻痺は、ベル麻痺かハント症候群か、また、難聴やめまいを伴っているかいないかで予後が変わってきます。 このため、難聴やめまいに関する検査が必要です。 内耳の軽微な障害では、自覚的に明らかな症状がなくても、検査で軽い難聴や平衡障害(めまい)の所見がでる場合もあります。 高度な麻痺の場合は、神経が完全に機能をなくしているのかどうか、再生の可能性があるのかどうかなどをみるために、電気で神経を刺激する検査なども行われます。

治療

顔面神経麻痺の治療には、いくつかの議論があります。
基本的には、まず、ビタミン剤(Vit.B12)や内耳の循環改善剤などを使います。 これにステロイド剤を併せて使った方がよいかどうかという点、また、抗ウィルス薬を使った方がよいかどうかという点について、以前から議論がありました。 これらを使った方がよいかどうかで議論が分かれるのは、顔面神経麻痺には自然治癒するものも多くあるので、薬の効果を統計的に検証するのが難しいためです。 しかし、なるべく後遺症を残さないようにという観点から考えると、最初の1〜2週間は、出来る限りのことを行った方がよいといえます。
特別な病気を持っている方などを除けば、ステロイド剤も抗ウィルス薬も、顔面神経麻痺の治療に使う程度の量と期間であれば、特に副作用の心配はありませんので、これらのお薬を併用されることをお勧めします。
軽症の場合は、これらのお薬を、内服で使います。 50歳以上の方、麻痺の高度の方、糖尿病などの合併症のある方などは、入院で治療されるのが望ましいといえます。

発症後の経過

顔面神経麻痺は、一般に、発症してから1週間程度、症状の進行する時期があります。 この時期にきちんと治療することが重要です。
この時期は、たとえ治療をおこなっていても、目に見えるほど改善がなかったり、逆に症状が少し悪化する場合もありますが、この時期を過ぎると、徐々に麻痺は改善に向かいます。