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各疾患の解説と症例集

急性中耳炎と滲出性中耳炎

耳内図解 鼓膜の内側の空洞を中耳といいます。 中耳は、耳管という管を経由して鼻の奥とつながっています。 耳管は、中耳の換気を行うための管です。
 鼻の奥の細菌が、耳管を通って中耳に入り、中耳の中で繁殖し炎症を引き起こした状態が急性中耳炎です。
一方、鼻や耳管の粘膜が腫れるなどして、耳管の換気がうまくいかない状態が長く続くと中耳の中に液体が滲み出してきて溜まってきます。 これを滲出性中耳炎といいます。
 急性中耳炎の特徴は、急激な発症、耳痛、発熱などです。 他方、滲出性中耳炎では、痛みや熱などの症状がないので、乳幼児では発症しても鼓膜を見ない限り分からないことが多く注意が必要です。 ただし、実際には、急性中耳炎と滲出性中耳炎の中間のようなタイプの中耳炎も多くみられます。

 最近、中耳炎が低年齢化する傾向にあり、また難治性となってきています。 これは、中耳炎を起こす細菌に耐性菌が増えてきたことと、1歳前後くらいから保育園にいく子供さんが増えてきたことの二つが主な原因であるといわれています。 一般には、1歳前後から2歳くらいまでに中耳炎にかかると、難治性で再発を繰り返すことが多いのですが、年齢が上がるとともに徐々に治りやすくなってきます。

 中耳炎の治療では、適切な抗生剤の選択と鼓膜切開や鼻の吸引処置などが重要であるといわれています。 中耳炎治療のガイドラインでは、抗生剤として、ペニシリン系の抗生剤かセフェム系のメイアクトかのいずれかを用いるべきであるとされています。 中耳に膿や滲出液が長く貯留した状態は、難聴をきたす他、耳の発育にも非常に悪影響を及ぼします。 このため、薬を使っても膿や滲出液が引かない場合は、鼓膜切開を行い、これらを排泄させることが重要です。

鼓膜切開について

 通常の健康な状態では、耳管で中耳の換気が行われているのですが、中耳炎をおこしているときには、通常、耳管の機能もうまく働かなくなっています。 鼓膜切開を行うと、中耳の中の膿が減ることに加え、鼓膜切開による穴を通して、中耳の中の換気が行われます。 中耳の換気が十分に行われることが中耳炎の治癒に重要な働きをします。 そのため、鼓膜切開を行った後、切開した穴が鼓膜に開いている間は、中耳炎が急速に治っていきます。
 鼓膜切開の穴は、通常、数日から1週間程度で閉じてしまいます。 穴が閉じて、中耳炎も治れば、治療終了です。 しかし、乳幼児、特に低年齢の子供さんでは、穴が閉じると、再び中耳炎が悪化するという繰り返しになることがあります。
 鼓膜切開を行っても中耳炎がなかなか完治しない場合や、一旦治っても再々繰り返すという場合には、鼓膜に換気チューブを留置する方法が有効です。

鼓膜換気チューブ挿入術について

 鼓膜換気チューブ挿入術では、鼓膜に切開を行った後、数mmの大きさのチューブを穴に差し込みます。 チューブには鍔がついていて、一旦差し込むと自然には外れにくくなっています。 チューブ留置手術は、通常は、外来で局所麻酔下に簡単に行うことができます。 しかし、処置に対する恐怖感の強い子供さんなどでは、安全のため、入院の上、全身麻酔下で行っていただくこともあります。 この場合の入院は、通常一泊二日程度です。
 チューブが留置されていると、チューブの穴を通して中耳の換気ができるので、中耳炎が治ってきます。 中耳炎が治った状態を長く保たせることにより、また、その間の身体の発育により、耳管の機能も徐々に改善してくることが期待できます。

 チューブが留置されていても、聞こえ方には全く問題ありません。 むしろ、中耳炎で中耳に滲出液などが溜まっている状態に比べると、ずっと聞こえはよくなります。
 チューブ留置中の注意点としては、耳に水が入らないように注意していただきます。 耳栓をすれば、通常の水泳は可能ですが、深く潜水するような行為は避けていただきます。 入浴は、さほど問題ありませんが、洗髪時に耳に水が入りやすい場合は、綿花などで栓をしておくとよいでしょう。

 チューブは、通常は、1年後くらいに外します。 チューブを外した後、鼓膜にあいた穴は、徐々に閉じてきますが、稀に穴が閉じずに残ってしまう場合もあります。
 穴が残ってしまった場合でも、比較的、簡単な手術で、鼓膜の穴を閉じさせることができます。

鼓膜換気チューブと、チューブ挿入された鼓膜